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グリーン関数とマックスウェルの方程式

 最近勉強したことを書いてみました。電磁波を講義する方には参考になると思います。ここでは、前書きのみを書き出しました。詳しくは グリーン関数とマックスウェルの方程式 のファイルを見てください。 1.  まえがき   ある会社の社内研修として、電気回路、無線通信、信号処理などの基礎を講義する予定である。無線通信、特に、マイクロ波伝送については、自分で新しく教習用資料を作った。その続きとして、アンテナの数学的原理について調べてみた。そこで最も重要な概念がグリーン( Green )関数である。名前とその関数の形は知ってはいたものの、さほど詳しく理解していなかった。大学での無線通信の講義で、アンテナについては、簡単に話したはずである。しかし、グリーン関数には触れずに天下りに説明したのであろう。何冊かの専門書やネットの解説記事を読んだ。ここでは、私が理解したことを書く。ほとんどは、専門書「物理とグリーン関数」 [1] に沿って進める。そのまま、紹介するのでは意味がないので、私がわかりやすいと思うやり方で、式の導出を変更し、私なりの解説を付け足している。グリーン関数の応用として、微小ダイポールアンテナと半波長アンテナの解析を行った。最後にグリーン関数による記述と線形時不変システムの出力応答が等価であることを、交流理論との関係も含めて、説明する。

林 幹「日本の電気産業はなぜ凋落したのか」

  本の題目に対する答えは、私自身もそれなりに持っていたので、期待しないで読んだ。著者は TDK の営業及び経営管理部門にいた人である。その父はシャープの副社長まで務めたとある。読み始めてみると、文章もわかりやすい上に、自分の体験を後悔・反省しながら具体的に書いているので、興味が持てた。父親に質問し、意見を交換したいきさつも書いてある。 失敗の原因を 5 つの大罪になぞらえて、「誤認」 , 「慢心」 , 「困窮」 , 「半端」 , 「欠落」の罪として、章を立てて書いている。どれも言われてみればうなずける。昭和の戦争の失敗を分析した著作物等も含めて、失敗の本質をさぐれば、何事も同じような結論にたどり着くのだろう。 著者は TDK に勤めて、カセットテープから始めて、光ディスクなど記録媒体の販売企画、経営までを通じて、会社の記録媒体事業の盛衰を体験している。光ディスクについて書いたことが印象に残る。このように体験を含めているのでそれなりに説得力がある。しかし大事な事はその体験を一般化することである。著者はそれをかなりやり遂げていると私は思う。 磁気テープ ( アナログ ) はノーハウの塊である。それで、 TDK 、 ( 日立 ) マクセル、ソニーでほぼ世界中の市場を押さえていた。その後、光ディスク ( デジタル ) の登場によって、台湾勢に駆逐されてしまった。その原因は、アナログとデジタル技術の差異を「誤認」して、台湾勢がそんなに技術力をつける事はないと「慢心」していたからだ。日本勢の中で、そこそこ戦うことができた企業として、太陽誘電のことが書かれている。光ディスク登場の頃、この会社の名前を目にしたことがあった。コンデンサーなどの誘電体を作ることから始まった会社だろうとは推測していた。光ディスクに手を出していたので、オヤと思った記憶がある。 著者の書いたことによれば、太陽誘電は、 CD-R の開発を主導した企業の 1 つであり、基幹特許を持つていて、優位性があるのは知られていた。しかし、太陽誘電が事業を継続できたのは、特許だけではない別の理由があった。浜田恵美子と言う研究者が、 CD-R の開発に多大の貢献をしたそうだ。業界では、「 CD-R の母」として知られた。彼女は CD-R の発明者として台湾に呼ば

数学論文投稿(電子情報通信学会 8度目の拒絶と9度目の投稿)

 またもや拒絶通知がきました。前回担当の編集委員が査読者に回さないで、自分だけで判断して拒絶したことは前回の報告で書きました。実はこの時に編集委員会の幹事団で問題になり、そこで協議した結果だったことが判明しました。それで、今回は、幹事団の一人が編集委員担当となったようです。 前回の回答文を九大電気情報工学科の同僚に読んでもらいました。彼が言うには、私の回答は喧嘩を売っているそうで、これでは、また落とされると言っていた。彼の予言が当たりました。それもあって、今回の投稿はあまり反論せずに、編集委員の指摘事項を満足するように書き直しました。 実は、この条件が私には理解が難しくだいぶ考えました。考え続ければなんとかなるものです。すっきりとしました。 今、 改訂原稿 と 回答書 を書き終えて寝かせているところです。興味がある方は見てください。 回答書の最後の部分のみを下に書いておきます。 付け足しの付け足し   私が本学会にこの論文原稿を投稿したのは、何度も書いたように、日米の数学会に門前払いで落とされたからです。本学会に数学の専門家は居ないのではないかということは十分承知しています(ただし、査読者 B と旧査読者 A は数学専門家に劣らない素養を持っているように、私には思えます。有り難いことです)。私がそれでも本学会に投稿したのは、数学の特質にあります。数学は数式で書かれている場合には、たとえ数学の専門家でなくとも、その意味するところは少し学習すれば、そこそこ理解できることが多いからです。今回の論文原稿がそうだと思いました。編集委員を含めて査読者とやり取りすれば、論文の評価(正しさと有効性)をできると考えました。数学のこの特質ゆえに、様々な分野で数学が使われているのです。  物理の問題はそうではありません。例えば、量子計算機や量子暗号通信の原理になっている、「量子もつれ状態」を私は未だ理解出来ません。解くべき問題に応じて、量子もつれをどのようにしてほどいて解を得るかについては、専門家の解説でも本質の肝心なところに触れていない気がします。  私はこれまで、マイクロ波回路で使う Maxwell 方程式を解くときに現れた Bessel 関数、行列とテンソル、通信方式における線形システム理

電磁波の伝搬とマイクロ波伝送回路

  社員研修用の資料 を作成した。ここでは、前書きと後書きを抜粋する。興味のある人は、全体を読んでください。 1.  まえがき  ある会社の技術顧問として、複素数、デルタ関数、フーリエ変換、線形システム理論、電気回路の交流理論、および、マイクロ波の基礎を講義することになった。私の書いた教科書、「信号処理の基礎」(昭晃堂)を用いることにしている。しかし、この本の内容は、マイクロ波を含んでいない。これに対して、手元に適当な教科書が見当たらなかったので、ここに、新しく書いてみることにした。  まず、 Maxwell の方程式の紹介から始める。ここでは、この偏微分方程式が物理的に意味することを説明する。次に、自由空間での平面波としての電磁波を、 Maxwell の方程式から出発して記述する。ここでは、進行波の性質を、伝搬定数、伝搬速度、波長、直線偏波、円偏波などの概念を用いて説明する。     Maxwell 方程式を用いて高周波回路の解析を行うためには、その回路によって与えられる境界条件を必要とする。それで、異なる媒質が接する面上における電磁界に課せられる条件を示す。完全導体の表面はその特別な場合である。    次に、高周波回路の代表の一つである同軸伝送路を取り上げ、その基本モードである横波( TEM: Transversal Electric and Magnetic field )を仮定して、その電磁界の伝搬を説明する。同軸伝送路については、分布定数 ( インダクタンス L , キャパシタンス C ) 線路として、電圧 ( V ) と電流 ( I ) を用いる従来の交流理論の範囲内で議論する方法がある。しかし、この方法は、 L, C がなぜこのように分布するかは、直ちには理解しにくい。ここでは、円筒座標表示を用いて、 Maxwell 方程式の境界値問題を、 TEM 波を仮定して解く。ここで、天下りの記述はできるだけ避けている。これにより、進行波と反射波、特性インピーダンス、並びに反射係数を定義した。また、整合負荷および電圧定在波比 ( vswr: voltage standing wave ratio) の概念を紹介する。   TEM 波は、電圧と電流を一義的に定義で

ジョン・ダワー「敗北を抱きしめて」

  ジョン・ダワー「敗北を抱きしめて」 ( 岩波書店 ) コロナに罹って、布団の中で 10 日間過ごした。前から出ていたアレルギー性鼻炎の症状が少し強くなった位で、熱は平熱のままであった。 2 階の 1 室に隔離され、 3 度の食事は、廊下での受け渡しとなった。気持ちの持ちようなのか、あるいは、体を動かさないせいなのか、酒がなくとも平気であった。また、退屈もしなかった。読書を心おきなくできたからだ。娘とその婿から 3 冊の本の差し入れがあったのに加えて、自分の本棚を見渡して、 R. ドーキンス「祖先の物語」 ( 小学館 ) と表題の本を選んだ。また、小出昭一郎、「物理現象のフーリエ解析」を読んで、私の数学論文の式変形が不十分なところに偶然気がついたのは、怪我の巧妙である。   この本は、上下巻合わせて 834 ページの大作である。 2010 年、第 7 刷とあるから、これ以降に買ったはずだ。途中まで読んで、私はほとんど読んでないことを知った。識者が推薦する本の上位にあったので買ったものの、そのままになっていたのであろう。途中まで読んで、読み終わるのが惜しくなる感情を久しぶりに味わった。増補版とあり、日本語訳に際して写真と図表が大幅に追加されている。写真は、文章以上に雄弁である。読み終えたのは、療養期間が明けて 10 日間位あとである。例によって読書感想文を書こうと思ったものの、なかなか構想が固まらない。それで、思いつくまま書くことにする。 戦後史については、保阪正康、半藤一利、加藤典洋などが、また戦後の思想については、丸山眞男、吉本隆明、岸田秀、白井聡、などが書いたものを思い出す。これらに比べると、本書の出来栄えは圧倒的である。ただし、戦後の重要な出来事が新しく発掘されていると言うわけではない。ポツダム宣言、天皇の取った行動、 GHQ とマッカーサー、新憲法制定、非軍事化と民主化の推進、財閥解体、農地解放、公職追放、レッドパージ、朝鮮戦争勃発、再軍備、独立後も続く対米依存などの主要の話題は、これまで、著作本、新聞雑誌の記事としてすでに書かれ、議論されている。   この本の特徴は、議論の仕方が学問的であることだ。すなわち、研究の成果を書いてある。学問において重要な

数学論文投稿(電子情報通信学会 7度目の拒絶と8度目の投稿)

 7度目の投稿も拒絶されました。2か月以上待っても査読者が決まらないので、ヤキモキしていました。驚いたことに、編集委員が査読者に回さずに、自分自身で拒絶の判断を下していたのです。フーリエ変換と逆変換に対する私の定義が間違っていると指摘して、拒絶理由にしています。私は、先の回答で、定義は正しいか否かの判断になじまないと書いていました。これにもかかわらずに、正しくないとの言葉使いをしています。怒りに任せて、反論をする回答文と訂正原稿を4日で書きました。 実は、コロナで自宅隔離療養 をしていたとき、布団の中で退屈しのぎで本を読んでおりました。このとき、物理数学の専門書で私の原稿の中の式変形の間違いに気がつかされました。投稿論文の取り下げの判断を編集委員に問うたのと入れ違いに、拒絶通知が来ました。この間違いは、数学の初歩に関しており(ゼロで割り算してはいけない)ます。ただし、油断すると思い込みによる気がつきにくい誤りです。査読者も今まで指摘してくれませんでした。私は、間違った式の結果を基づいて、査読者の意見に反論しておりました。今更ながら恥ずかしい次第です。ただし、これが、学問の楽しさの一つでもあります。 この間違いは、従来の方法の説明をしているところにありました。したがって、私の論文の展開に、大した影響はありません。 回答文 と 誤りを修正削除した 再投稿原稿 を寝かせています。興味がある方は、今回の回答文(1〜5ページ)だけでも読んでください。

J. ダイアモンド、「人間はどこまでチンパンジーか」(1993)

  本の帯による原題は「 The third Chimpanzee 」である。副題として、「人類進化の栄光と翳り」とある。これまでの人類の進化を、虐殺の例を含めて説明した上で、人類の未来を憂いている。ただし、悲観に終わるのではなく、楽観的な見通しも示している。この本は、昨年の夏に、五島の実家にいたときの暇つぶしに通販で買って、読みかけたままにしていた。著者の別の本「銃・病原菌・鉄」 (2000 年 ) は、だいぶ前に読んだ。識者が推薦する本の最上位層に挙げられていることが多かったので。私が読んだこの 2 冊は発行年からしたら、順序が逆になっている。   「銃・病原菌・鉄」は、ヨーロッパ文明が世界でなぜ先に進んだかについて書いたものである。これは、今回、紹介する本の中での話題の 1 部を取り出して、詳しく議論したものと言える。今回の本の和訳題名は良くないように思える。訳者あとがきによれば、原題は。英国版が「 The Rise and Fall of the third Chimpanzee 」、米国版が「 The Evolution and Future of the Human Animal 」である。私は後者の方が良い題目だと思う。動物の中の 1 つの種である人類の進化がもたらした、地球上の他の動物や植物に与えた被害の大きさを、事実を示しながら巧みな語り口で続ける。すらすらと読めるものの、新しい事実が次々に現れるので気が抜けない。 ここでは、この本で書かれていることで、私が興味を持ったことのみを箇条書きで示す。 1.  高等霊長類の分岐は新しい順に、コモンチンパンジーとピグミーチンパンジー、その前にこれらと別れたのがヒト ( したがって、この本では、ヒトのことを第 3 のチンパンジーと呼ぶ ) 、その前に別れたのがゴリラとされている。したがって、ヒトはチンパンジーとゴリラの間にある。 DNA の違いとしてみると、チンパンジーと人は 1.6% 、ゴリラはヒトおよびチンパンジーと同じ位の 2.3% とされている。私はヒトが最後に分かれたものだと思っていた。 2. 人類の性と生殖行動の特異性は、赤ん坊が生まれてから独り立ちできるまでに長い年数がかかることが原因である。母親 ( メス ) 1 人では、この長