電磁波の伝搬とマイクロ波伝送回路
社員研修用の資料を作成した。ここでは、前書きと後書きを抜粋する。興味のある人は、全体を読んでください。
1. まえがき
まず、Maxwell の方程式の紹介から始める。ここでは、この偏微分方程式が物理的に意味することを説明する。次に、自由空間での平面波としての電磁波を、Maxwell の方程式から出発して記述する。ここでは、進行波の性質を、伝搬定数、伝搬速度、波長、直線偏波、円偏波などの概念を用いて説明する。
Maxwell 方程式を用いて高周波回路の解析を行うためには、その回路によって与えられる境界条件を必要とする。それで、異なる媒質が接する面上における電磁界に課せられる条件を示す。完全導体の表面はその特別な場合である。
次に、高周波回路の代表の一つである同軸伝送路を取り上げ、その基本モードである横波(TEM: Transversal Electric and Magnetic field)を仮定して、その電磁界の伝搬を説明する。同軸伝送路については、分布定数 (インダクタンスL, キャパシタンスC) 線路として、電圧 (V)と電流 (I) を用いる従来の交流理論の範囲内で議論する方法がある。しかし、この方法は、L, Cがなぜこのように分布するかは、直ちには理解しにくい。ここでは、円筒座標表示を用いて、Maxwell方程式の境界値問題を、TEM波を仮定して解く。ここで、天下りの記述はできるだけ避けている。これにより、進行波と反射波、特性インピーダンス、並びに反射係数を定義した。また、整合負荷および電圧定在波比( vswr: voltage standing wave ratio) の概念を紹介する。
TEM波は、電圧と電流を一義的に定義できる。それで、分布定数線路と同じように、複素インピーダンスを定義できる。伝送路端に任意の負荷インピーダンスを接続したときの、電界と磁界の伝搬を、電圧、電流で表現することにより、線路の任意の位置から見たインピーダンス、および反射係数を求める。これらの関係を図に表すスミスチャートの概念とその使用法についても説明する。
補足として、Maxwell 方程式にrot E (H) が現れることを、直角座標系の微小面積領域での周回線積分を行うことによって説明した。
以上の概念を学習すれば、マイクロ波回路の基本の原理は、ほぼ理解できる。
7. あとがき
今回は、書物をほとんど見ないで、自分の頭の中で書いた。実は、最初、式 (8) を間違っていて、電圧を求めようとして、これがどうしてもうまくいかずに、2日ほど悩んだ。仕方なくネット記事や、教科書[1]を見た。ただし、どれも天下りの説明でしっくりしない。例によって、朝の布団の中での目覚めのときに間違いに気がついた。正しい式 (8)を積分して、いわゆるアンペールの法則を与えることができた。
大学での電磁気学講義では、2通りの方法がとられる。一つは、電磁気の発展過程にしたがって、アンペールやファラデーの法則などの個別の現象から説明する。もう一つは、連立偏微分方程式であるMaxwell 方程式から出発して、 積分することにより個別の物理現象の説明を行う方法である。私が今回、色々参照したとき、天下りの説明と感じたのは、実は、これらは個別の物理現象の結果をもとにして議論を進めていたのである。これに対して、私はMaxwell 方程式から出発して、演繹的な議論をした。このようなやり方で、直線電流の周りに磁界がどのように発生するかの説明は私にとっては初体験である。大学の電磁気学講義としては、中学や高校で習った電磁気を簡単に復習したのち、これの解釈をMaxwell 方程式をとうして行うのが良いと思う。それにしても、電磁気現象を数式で定式化したMaxwellはすごい。Maxwellが自分の頭の中で行ったことを、再現できれば、電磁気学はもっと理解しやすいはずだ。
気になったので専門書をネットで探してみた。電磁気学とマイクロ波工学について書いたものは多数見つかった。ただし、私が学生時代に読んだものはみつからなかった。それで、私の直感で選んだ [2]。これが当たりだった。副題として、「基礎と原理」とあるように、天下りの説明ではなく、原理にさかのぼってしっかり書いてある。また、Maxwell 方程式が出る過程を、アンペールやファラデーの法則から出発して示している。
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