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草薙龍瞬、「反応しない練習」(KADOKAWA)

草薙龍瞬、「 反応しない練習 」 (KADOKAWA)               2015 年第 1 刷、 2022 年第 45 刷   まずは、表紙、裏表紙、帯に書いてあるうたい文句を紹介する。   ・あらゆる悩みが消えていく仏陀の超・合理的な 「 考え方 」 ・仏陀は実は、「超クール」 ・世界最強 & 最古の「メンタル・トレーニング」入門 ・今日から始められる!「感情を、上げもせず、下げもしない」  シンプル生活 ・人生をもっとシンプル & ロジカルに   悩みは消すことができる。 そしてそれには方法がある。 「生きることには苦しみが伴う。 苦しみには原因がある。 苦しみは取り除くことができる。 苦しみを取り除く方法がある。」(サンユッタ・ニカーヤより) 他人の言葉、スマホ、心配事 … 「無駄に反応」するばかりに疲れていませんか?   大好評ロングセラー 20 万部突破 !   目次は次のようになっている。 第 1 章 反応する前に「まず、理解する」 第 2 章 良し悪しを 「 判断 」 しない 第 3 章 マイナスの感情で 「 損しない 」 第 4 章 他人の目から「自由になる」 第 5 章   「正しく」競争する 最終章 考える「基準」を持つ   著者紹介を書き写す。   草薙龍瞬(くさやなぎ・りゆうしゆん) 僧侶、興道の里代表。 1969 年、奈良県生まれ。中学中退後、 16 歳で家出・上京。放浪ののち、大検(高認)を経て東大法学部卒業。政策シンクタンクなどで働きながら「生き方」を探求しつづけ、インド仏教指導僧、左々井秀領師のもとで得度出家。ミャンマー国立仏教大学、タイの僧院に留学。現在、インドで仏教徒とともに社会改善 NG O と幼稚園を運営するほか、日本では宗派に属さず、実用的な仏教の「本質」を、仕事や人間関係、生き方全般にわたって伝える活動をしている。毎年夏の全国行脚や、経典の現代語訳の朗読と法話を採り入れた葬儀・法事を行うなど、「もっと人の幸福に役立つ合理的な仏教」を展開中。著書に『これも修行のうち。実践!あらゆる悩みに「反応しない」生活』 (KADOKAWA) 、『大丈夫、あのブッダも家族に悩んだ』(海竜社)が

占いについて

  「その漢和辞典間違ってますよ!」の宣伝文 ( キャッチコピー ) に惹かれて、落合淳思、「漢字の成り立ち ( 「説文解字」から最先端の研究まで ) を読んだ。私は白川静の学説を信じているので、それのどこが間違っているかと興味を持った次第だ。漢字の研究の歴史を要領よくまとめて紹介している。文章もかなりの使い手である。字源研究は 30 年ほど前に途絶えていたそうだ。著者は膨大な資料をコンピュータデータベースに蓄積して、これを駆使して研究を進めている。 特に印象に残ったところは、白川静と藤堂明保 ( 東大教授 ) の論争についてである。白川静に軍配が上がっているとは知っていた。その論争の本質になるなるものを紹介している。白川は漢字の象形 ( 表意 ) に重点を置いているのに対して、藤堂はその表音に重きを置いているそうだ。象形文字は、甲骨文字から始まってその形は時代とともに変わってはいるものの、その程度は軽く元の形にたどれる。これに対して、表音は昔のものを再現する手段がなきに等しい。時代が降ると漢字に付けた韓国の表音文字、ハングル、が古代漢字の発音の解明に貢献しているそうだ。著者は主に、この 2 人を対比させて、彼らの間違いを正している。ただし白川の学説の間違いは思ったよりも少ない。白川が字源の解釈に際して、祭祀儀礼をあまりに重視しすぎていると言う批判が主なものであった。   さて、私がここに書きたいのは、字源研究についてではない。この本の中で甲骨文字について説明しているところが発端である。古代中国の王 ( 支配者 ) は重大な決断を行う行う前に、亀の甲羅や動物の骨を火に炙って、そのひび割れの様子を見てどうするか決定した。白川の本のどこかで書いてあり、私が覚えている例は次のようなものである。ある王が異民族である「姜」を討つ(狩る)べきか否かを占った結果を、甲骨文字として書きつけていた。著者が言うには、王の考えは占う前から決まっていて、望む結果 ( ひび割れ方 ) が得られるように、甲羅の裏側に切れ込みを入れる細工を施してあったそうだ。確かに、物事を決めるときに占いに頼ってばかりいると、目的達成効率が下がるであろう。王はなぜ形式的にせよ、占いを行う必要があったのだろうか。それはうまくいかなかったときの自分の責任逃

数学論文投稿(電子情報通信学会 6度目の拒絶と7度目の投稿)

 6度目の投稿にも拒絶通知が来ました。少し期待していたのに残念です。 これまでの査読委員の一人と編集者が交代しました。私の無礼な回答に気を悪くしたのかもしれない。厳しい指摘に対して、私も意識的にやや激しい言葉つかいをしたところです。学問上の議論ではあるし、論文が受理されても私の今後の人生に影響はないので、儀礼的な言葉つかいは必要なしと考えました。しかし、先方もボランティアとしての活動であるので、敬意を表するために言葉選びを慎重にすべきったと反省しています。それにしても、彼らは学問上の議論から逃走したことになるとも、私からは思えます。  もう一人の査読者とは、議論の核心に到達したようです。「変換」「逆変換」の数学的な厳密さによれば、変換後の値が一意に定まらなければ、これらの専門用語を使ってはならないそうです。私の用語はこれにかなっていませんでした。そこで、助言に従い、 「the generalized-limit Fourier Transform」 と 「the generalized-limit inverse Fourier Transform」の専門用語を作り出させてもらいました。   新しい原稿 と次回の査読への参考となる 著者の回 答 を書き終えたところです。しばらく寝かしてから、投稿する予定です。興味がある方は読んでみてください。回答は日本語で書いていますので、こちらのみでも面白いと思います。これまで、孤立無援の論争を続けてきました。どなたか、援軍の手を差し伸べてくだされば、嬉しい限りです。

今年のノーベル生理学・医学賞

  受賞者のスバンテ・ペーボ博士は、前に NHK の番組を観て知っていた。特徴ある人相と話しぶりが印象に残っている。旧人類ネアンデルタール人の骨を収集して、すべての遺伝情報 ( ゲノム ) 解析に成功した。細切れになっているゲノム情報を効率的につなぎ合わせる工夫を行ったようである。受賞理由は、ネアンデルタール人のゲノムの 1 部が、新人類 ( ホモサピエンス ) に取り込まれていること、すなわち、両者がヨーロッパで交雑したこと、旧人類にはネアンデルタール人の他にユーラシア大陸北東部にデニソワ人が居たこと、および、これらの旧人類から受け継いだ遺伝子が新型コロナウィルス感染での重症化率に関与していること、を解明したことと紹介されている。 新型コロナに対する重症化率について、アジア諸国では死亡率が低いことなど、人種間に違いがある事が知られていた。京大の山中教授はこれの原因をファクタ X と呼んでいた。これの正体が突き止められたと言う事になるだろう。   NHK の番組では、以上の受賞理由のほかにも、旧人類と新人類の遺伝情報の違いについて触れていた。 新人類は旧人類の DNA の塩基の 1 カ所が突然変異 によって変化していると言うものだった。旧人類から新人類への突然変異が脳の性能の変化につながっている事は間違いないだろう。私はこの発見がより大きな貢献だと思う。上に述べた今回の受賞理由は、ノーベル賞が重視する学問あるいは社会へのインパクトからすると、そこまで大きいようには思わない。   新人類の脳の性能は、良い点では、旺盛な好奇心により、芸術、技術、科学、哲学などを進める原動力となったことだ。悪い点では、孤独を愛しすぎること、過度な宗教心を育てたこと、攻撃及び残虐性が生じたこと、並びに、精神病を引き起こしたことなどが考えられる。 新人類の遺伝情報の変異の部分を中心にして、これが脳の形成にどのような役割を果たしているかがわかれば、新人類の脳が引き起こしている地球上の問題を解決するための対処法が見つかるかもしれない。ただし、私は単に遺伝子操作をして人間の脳を作り変えることには賛成しない。薬などの対症療法を念頭に置いている。

佐伯啓思「近代の虚妄 - 現代文明論序説 -」

  この本は、 2020 年 10 月に東洋経済新報社より出ている。 493 頁からなる本格的書物である。著者、佐伯啓思は、朝日新聞で不定期に掲載される「異論のススメ」で前から注目していた。物事の本質を自分自身の頭で考え抜こうとする姿勢を私は買っている。加藤周一が、同じ新聞で「夕陽妄語」と題して連載していたものと同じ印象を受ける。この本はついこの前に買ったばかりなのに、どのようなきっかけで買ったのかは思い出せない。   ここでは、この本の内容を私なりにごく簡単に要約して紹介するとともに、これをダシにして私の持論を述べてみたい。   著者は序章として、「新型コロナウィルス」から始める。そこでは、以下のような項目が順番に論じられる。「直撃されたグローバル資本主義」、「停止した民主主義」、「パニックを増幅する「専門家」とメディア」、「常識はどこへ行った?」、「死は常に待ち構えている」、「現代社会はヨーロッパ近代の延長上にある」、「 21 世紀のタイタニック、現代文明の問題」、「コロナが象徴するもの」である。本書の内容は、これまでの哲学の歴史を著者なりの解釈を加えて紹介することで、ここで挙げた論点を繰り返し論じる。   第一章「フェイク時代の民主主義」はトランプ大統領が登場してからの政治状況でまとめることができよう。冷戦で勝利し、世界の覇権を握った近代アメリカが、トランプの登場で民主主義の問題を明らかにしたと書く。著者は、トランプ大統領の誕生を、ここ 10 年の最大の出来事だとする。私なりに言い換えてまとめよう。トランプが選挙公約に掲げたのは、労働者、主にアメリカ白人中間層 ( 大衆 ) を再び前のような地位に戻してあげると言うものだった。この問題意識は極めて妥当である。しかし、彼のその解決手段は、メキシコ国境に壁を設置して不法移民の流入を防ぐことを例として、よく考えれば成功しない嘘 ( フェイク ) とわかるものが多い。しかし、トランプを支持した大衆は、選挙においてトランプの公約を認めたのだ。   著者によれば、このような政治状況は、ギリシア時代に既に現れていたとする。いわゆる、ソフィスト ( 詭弁家 ) は物事の真理は無視して、いかにして、大衆の支持を得るかの弁論技術を競った。これに対して、アリス

新型コロナウィルス対策

  このウィルスが流行り始めてからだいぶ経った。私も 4 回目のワクチン接種を受けた。幸いにしてまだ感染していない。この間、新聞やテレビ、及び、知人たちの SNS で、様々な情報が飛び交った。これらの情報に接してきて、私はなぜかすっきりと納得することができなかった。最近、朝日新聞のウェブサイト「論座」の記事をまとめて読んでみて、納得した気になった。そのことを書く。 このウィルスの流行発生のいきさつからして、いろいろな情報が出回った。何が真実なのか戸惑いを覚えた人は、私以外にも多いだろう。感染の状況を報じた新聞記事を思い出す。ある病院での 1 人の感染者がトイレのドアのノブに触り、これに付着したウィルスが後で触れた人々に移り、皮膚を介して人体に侵入ものと書いてあった。   専門家と思われる方々が出した対策は、接触感染を重視して、くしゃみ、咳、大声などで口から出る飛沫によって感染するので、人との距離を 2 メートル以上離す、マスクをする、多数での飲食会話を避ける、人が接する場所ではアクリルついたてなどで遮蔽するなどの対策が推奨された。 今回、私が読んだところによれば、ウィルスは感染者の吐く息に乗って空気中へ浮遊するのが主だと言う。これを他の人が息をする時に吸い込むことで感染する。この事実は、日本での豪華客船ダイヤモンドプリンセス号での感染状況を分析して、前から論文として発表されていたそうだ。   この船では、感染拡大防止対策として徹底した隔離が行われた。ところが、船に送り込まれた医師などの専門家も含めて、他の乗客に広がった。それは空気中に浮遊したウィルスが空調設備の導管 ( ダクト ) を通って、各部屋に循環したからだというものだ。上に述べた論文は、医学界において、世界的に権威があるとされている雑誌の 1 つである、「ランセット」で発表されたという。日本のいわゆる専門家がこの論文に注目しなかったのは怠慢である。   空調設備では効率を上げるために、空気を吐き出すとともに、吸い込んで再び冷やす ( 温める ) 循環動作を行っており、空気の入れ替え量は少ない。これは各部屋に設けている通常のエアコンでも同じである。 ( ちなみに、建て替えた我が家は強力な機械式全熱交換システムを導入しているので、部屋

小泉 悠

  私はあまりテレビを見ない。それで、テレビで報道される事件はともかく、番組によく登場する話題の人物を知るのは、皆さんあるいはカミさんよりだいぶ後になってのことである。小泉悠については、 NHK の「日曜討論」で初めて見た。司会者を正面にして、左側には東郷和彦と小泉悠、右側には外務省のトップ ( 事務次官? ) 上りの男と、名前のみを聞いたことがあるような評論家が座っていた。テレビを見ながら、カミさんに小泉悠のことを聞くと、だいぶ前からテレビによく出ているそうだ。 ウクライナ侵攻事件が始まってからの後のことであり、世界の情勢について、これらの識者が意見を述べ合った。最初は外務官僚上がりの男と東郷和彦が主に喋った。東郷和彦は、彼の著書や佐藤優の書いたものでそこそこ知っていた。彼の祖父 ( 母方 ) は第二次世界大戦時に外務大臣を務めた東郷茂徳、父親は元外交官の東郷文彦である。今回、調べてみると、 1945 年生まれで私と同じ年である。 1968 年に東大教養学部を出て外務省に入っている。その他に、彼の先祖について興味あることが書かれてある。彼は鈴木宗男事件をきっかけとして、 2002 年に罷免されたそうだ。佐藤優の書いたものによると、彼は当時、佐藤の上司であり、外務省は彼の逮捕を免がせるために外国へ逃げさせたとあった。そして 1 人で罪を着せられたのが佐藤優であった:「国家の罠」 ( 新潮社 )) 。   人間そこそこの年齢になると、話しているときの仕草、特に顔の表情にその人の人間性が現れるのは隠せない。外務トップ官僚上りの男に比べると、東郷和彦ははるか格上のように、私には見えた。   話が小泉悠に振られた。彼が話し始めてすぐに好印象を持った。言うことが全て本質をついており、また、その話しぶりがわかりやすい。肩書が画面に出て、東京大学先端科学技術研究センター専任講師とあった。小泉悠は私の見る限り、私の持っている東大系の研究者の印象とはずいぶん異なる。後で知ったことではあるが、彼の経歴は面白い。早稲田大学大学院政治学研究院を 2007 年に卒業して、電機機器メーカーに就職して営業を担当した。仕事のミスで連日、叱責されて 1 年で退職したようだ。元々は軍事オタクであったとは本人の弁である。 興味を持