冬の海の贈りもの

 

五島灘は冬によく荒れる。雪はまれであるけど、日本海気候の端にあるから、 強い北風が吹く。 私の生家の浜の家では、海に面した座敷に寝ていると、浜に打ち寄せる波で、真砂がガラガラとゆすられる大きな音が聞えたものだ。昔はアルミサッシなどはなかったので、雨戸も音を立て、すきま風も入って来た。この時分の頃に関することで 母親が私に話したことを憶えている。私の祖父は冬に海が荒れた翌朝、早くに起き出し海岸に打ち寄せられた魚を捨いに行ったそうだ。 たいていは、ウマヅラハギ(五島では朝鮮ゴウベと呼ぶ)だったようだ。顔が馬面に似て細長く、魚体は本カワハギよりだいぶ大きい。五島では馬鹿にして(名前からしてそうだ)あまり、診重しない。しかし、冬には漁は休んでいるので、魚は貴重である。刺身にしても、味噌汁にしても、かなり旨い。

 

 

写真は、2日ほど前に、私が玄海灘で捨ったウマヅラである。7匹もいる。細く赤いのは、ヤガラと呼ぶ。これもまた、身が締っていて旨い。さて、イキサツを書こう。

 

例年、今頃になると、我が家で、殻付きの牡蠣(ほとんど豊前海産)を買って、古いフライパンで焼いて食べる。安く売っているいつもの店に出かけると、1kg当り600円で、昨年と同じ値段ででていた。今年初めてなので3kg買った。1kgは焼いてカミさんと白ワインのアテにして食べた。残りの2kgは焼いて身を取り出し、冷凍にして、チャンポンや皿うどんの具材にする。冷凍をしても、味はそんなに落ちない。解凍し温めてそのまま食べてもいける。 

 

寒い時期の()ブリも脂が乗って、これまた旨い。 カキを買ってから、これを思い出し、その先の海岸近くにある「道の駅」に車で向う。午前10時は過ぎていた。いつもなら、まだたくさん 揃べてある鐘崎漁港で水揚された魚が何もない。干物類はある。昨夜は大時化(シケ)だったので無理もない。しかたないので、何も買わない。せっかく海の近くまで来たので、荒れて白波を立てる海を車の中から見ようとして、海岸の駐車場まで行く。2台の車が先客であった。 

 

少しして、私が想い出した。2週間ほど前、実家がある五島奈留島の魚養殖業者に 頼んで、特にでかいナマコ12(ナマコはコと数える。私の亡き父は ツラと数えた)を送ってもらい、これをしばらくクーラーに活かすために、 海水を汲みに行ったことだ。 神湊(港)に行くと、海面があまりきれいでない。それで、荒れている波で、海水をかぶるのを承知で例年行く砂の海岸で汲んだ。帰りがけに、カミさんが波打ち際に魚らしき物が見えるという。私が 行くと、かなり大きいウマヅラである。カラスがつついたのか、目玉が無い。 また、腹の部分も大きな穴が空いている。尻尾付近の身も食われていた。しかし、裏側は無傷である。気温は0度付近であったろうから、身はまだしっかりしている。持ち帰り、煮付けと味贈汁で食べた。 

 

今回の海岸は少し離れてはいるけど、同じ玄海灘に面している。おまけに 昨夜はひどく荒れた。カミさんを車に残し、波打ち際を歩く。そうとう進んだけどいっこうに見つからない。諦めようかと思っていたところ、20mぐらい先にカラスが何かをつついている。急いで行くと、やはりウマズラだ。眼玉、内臓はだいぶやられている。捨い上げて、また歩く。カラスがさらに多い。そこで、続けザマに4匹を捨う。この海岸には砂の流出を防ぐためか、沖合にテトラポットの堤防を何箇所に分けて設置してある。魚が打ち寄せられるためには、この防波堤の間を通ることになる。したがって、ある部分のみに、魚が集まりやすくなっていたのだろう。魚体も写真にあるように、最大で60cmぐらいはある。

 

軍手をしてこなかったのを悔んだ。何せ北風がモロに吹きつける。魚が重たい上にこの寒さである。あまりの寒さに魚を手放し、手をポケットに入れて温めた。そうこうしているうちに、カミさんが心配して電話をかけてきた。ひき返す途中でまた2匹とヤガラ1匹を得た。これらは、いづれも無傷に近い。 ウマヅラの眼玉が無くなっていただけだ。あまりの重さと、長い帰り道と寒さに我ながら苦闘した。 

 

持ち帰った魚の処分に2時間以上かかった。皮をはぐときれいな身である。その日はカキがたくさんあって、酒のツマミも用意していたので、無傷に近い2匹の身は昆布締めにした。1匹はぶつ切りにして、近くにいる孫一家に届けた。煮付けと味噌汁にして、残りは、冷凍保存した。昆布締めは今晩でも食べてみる。

 

五島福江島に居る姉に電話で経緯を話した。彼女も、冬の海の荒れた翌日に、祖父が魚捨いに行った事を今日思い出していたという。偶然であった。そこで、祖父が朝早く出かける理由を聞いた。早く行かないとカラスに眼玉をホジれると話していたそうだ。 

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