キジの恩返し

 

10月下旬の10日間、五島(奈留島)の実家に行った。古い原付バイクに乗って、自炊用食品の買い出しへ町へ行く途中の山道にさしかかるところに 、軽トラックが停っていた。私の従弟が少し山に入ったところで、畑を作っている。 何か野菜を分けてもらおうと、山道に入ったところで、急に鳥の暴れる羽音がした。びっくりして見るとイノシシのワナ()にキジ(雉)が何羽もかかっている。従弟がいる畑まで急いでかけ上がり、キジの話をした。2~3時間前に彼が来たときには居なかった、と言う。その後、集団でワナにかかったものであろう。 

 

私が「よし、今日は1羽をもらって、キジ鍋にしょう」と言う。従弟は 乗り気でない。キジを捌いたことがないと言う。なにたいしたことはない。 ニワトリと同じように、毛をむしって、うぶ毛を藁火で燃やして、首をハネれれば良いだけだと私が言う。市役所 (実はその下受け人) が見廻りに来る前 1羽だけとって、他は逃がそうと決めた。問題はどのようにして、捕るかだ。幸いに、網と大型のザルが有る。入口を少し上げて、そこに、網を張っておき、出て来たら、網の上からザルをかぶせる作戦を立てた。

 

よく見ると、雄が3羽メスが3いる。3組のつがいが一緒につかまったと思った。その中で雄の1羽だけが少しだけ大きい。 これに狙いを定めた。出口に網をめぐらしてから、私が外から奥に行って追い立てる。 キジどもは、皆、いっせいに暴れ出す。鉄製の檻の柱の間に首をつっ込んで逃げようするも無理だ。そのうち、狙った雄が出口へ行った。行ったぞ、網を張れと声をかける。そいつが網をかいくぐって逃げたのは一瞬の間である。雄はまだ2羽居る。今度は、より慎重に追い立てる。網をしっかり踏ん張れと指示する。雄2羽が一緒に逃げてしまったのもあっと言う間であった。ここで、2人とも諦めて 、残りのメスを逃がしてやった。 

 

従弟は私より、くやしがってはいなかったように見えた。なにせ、キジ鍋 に乗り気でなかったのだから。ワナの構造を調べた。エサはトウモロコシであった。鳥はトウモロコシが好きなはずだ。食べに入った 。皆でついばんでいる間に、入口の柵を上げて止めている仕掛けの糸に触れてれてしまったのだろう。 入口の棚が一瞬に下りて閉じ込められた。 

 

野菜を分けてもらって、2人で道路に出たら、さっきのキジと思しき1羽の雄が道の反対側にじっと立っていて、こちらを見ている。我々もじっと見返す。それでも動かない。 先ほど檻の中で暴れて、首を柵のすき間につっ込んだときに、目を傷つけて、見えなくなっているかも知れないと私が言いながら、近付いて行った。手が届きそうになったときに、飛び立って行った。

 

アイツは俺たちに、逃がしてくれた礼を言うために、ここで待っていたのでなかろうか、と私は従弟に言った。明日は天気が良さそうなので、舟を 出して釣りに行くつもりだ。あのキジたちが恩返しに、大漁をさせてくれるかもしれないなとも話した。はたして、そのとおりであった。10月の下旬としては、めづらしくベタ凪であり、潮も小潮であり、釣り易い。一緒に誘った仲間 (東京の銀座でフランス料理のシェフをしたこともある) が、まず、大きな赤ハタ(40cmぐらい) (地元ではアカンジョが来た。その後、2人で、大きなフェフキダイ(地元では口火)、大紋ハタ  (地方ではモアラ)、赤ハタを釣った。彼は磯から、穴アラカブ(カサゴを釣るのが得意である。風が無いので、彼を磯の岩に上げて、彼の穴釣りを見ていた。エサを落しすぐに、喰いついた。竿を立てると仕掛けがぶち切れた。これが何度も続いた。 彼に言わせると、タイラバ仕掛は竿が柔らかく、 長いので、穴の奥に潜り込まれてしまうそうだ。それでも、小型・中型の アラカブを10匹以上を、続け様に釣った。 

 

元の釣り場にもどって、タイラバ釣りを再開した。しかし、昼頃になり、陽が高くなったせいか、 喰いが悪くなった。 用意していたおにぎり弁当(魚の干物、揚げ蒲鉾、タクアン、リンゴ、ミカン、相棒には缶ビールも) を広げた  天気が良いので、海の上のピクニック気分である。秋で空気が澄んいるので、上五島の島々や三井楽町の半島及びその先にある姫島もくっきり見える。 

 

その後、釣り場を変えたが喰いが悪い。実は、魚群探知機が故障で使えず、海底の様子が正確には分らず、私のこれまでの経験がたよりであった。最後の釣り場に移動したところ、これが当った。まず、同行の男に今日一番大きなハタ(大紋ハタ)が来た。 

 

私にもかなりのが続いた。そのうち、当りにあわせると、私の竿が今までにないほど大きく曲がる。ドラグを調整しながら、やり止りをするけれど、潮の流れもあり、岩の下り潜り込まれてしまったようだ。思い切り力を入れたところ、糸が切れてしまった。ショックリーダーの先端とタイラバ仕掛けの糸との結び目が切れていた 。魚には逃げられたけれども、そんなにくやしい気 がしない (地元の言い伝え: 逃げたイオ()は太かイオ、死んだ 子は良か子) 

 

今回の釣りの成果は、キジの恩返しに思える。 後で、姉に話したところ、キジ6羽は親子家族だろうとのこと。この時分になると、ヒナが大きくなって成鳥と見分けが付かなくなるそうだ。1羽の雄が少し大きかったのは、彼が父親だったのだろう。 家族なら一緒にワナにかかるのもうなづける。一緒に釣りに行った男によると、今時分のキジは美味しいそうだ。そして、雄よりもメスの方が旨いとのこと。肉料理は彼の専門だそうだ。彼は鳥一羽、丸ごとの骨を抜いてその隙間に詰め物をして元の姿形を保ったまま料理する方法を考え、コンクールで賞をとったことがあると前に聞いたことがある。来年にも、また、キジがワナにかかったのを見つけたら、すぐに 彼を呼んで料理してもらうことになっている。 

コメント

  1. 雉はにがしてやり、猪のほうが美味いやろう。

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  2. 面白い
    食べられなくて良かったです

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  3. 私が子供の頃に聞いた言葉を紹介します。イチカモニキジサントリシブタ

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