鮫島浩「朝日新聞政治部」(講談社、2022年5月)

 

崩壊する大新聞の中枢、政治部出身の経営陣はどこで何を間違えたのか? 全て実名で綴るノンフィクション、保身、裏切り、隠蔽 - 巨大メディアの闇、 若宮啓文、政治部長が私たち駆け出し政治記者に投げかけた訓示は衝撃的だった。「君たちね、せっかく、政治部に来たのだから、権力としっかり付き合いなさい」。    

 以上は、表紙、帯、裏表紙に書いてある宣伝文である。


私は中学生の頃から新聞を読んできた。父は漁師であったものの、本を読むのが好きであったし、新聞 (西日本新聞)も購読していた。漁を終えて、新聞を畳の上に広げて読んでいた姿は今でも思い出す。畑仕事を手伝って欲しい、私の母親が、「父ちゃん早くして」と言って、読むのを切り上げるのを頼んでいたこともあった。大学に入ってからは、ずっと朝日新聞をとっていた。この新聞社が出していた、週刊誌「朝日ジャーナル」は当時の硬派の大学生に人気であった。ともかく、私の中では新聞及びその記者は尊敬する対象であった。当時の記者では、本多勝一が気にいっていた。彼の本は何冊も持っている。その中でも報道とは関係ないけど、「日本語の作文技術」は文章読本の中でも優れていると思っている。


この本を読んでみて、新聞社も1つの営利企業体として、あるいは、組織の1つとして、出世競争の場であることに変わりがないことを知った。著者は記者の1人として、そして、(出世競争からは一歩退いて?) 報道とはどうあるべきかを、上司の指導を受けながらも、自分で考え実践したようである。そして、十分な功績をあげたようである。しかし、最後は会社トップの保身のために、捨て駒にされたようだ。自分の経験した事実を実名を用いて書いてあるので、生々しい臨場感がある。そこで語られることは、切られた者の恨み節には、私としては感じられない。新聞社の目標とする理念を達成するために、すべての社員がその目標に向けて、自分の出世は抜きにして働くのが理想である。そのようにならないのがほとんどすべての組織につきまとう宿痾ではなかろうか。


途中まで読んでいて違和感を持ったところがあった。政治に係る大きな案件について、1日でも他者を出し抜いて記事にする、いわゆる特ダネ報道に勢力を注いでいることであった。いずれ公表されるのであれば、そんなに急ぐ必要は無い。大事な事は、政府が国民を欺く、あるいは知らせないのが国民にのためになると勝手に決めた場合である。これらの秘密を表に出すのは民主主義を建前とする以上、最も勢力を注ぐべきである。著者も、そして、心ある上司も特ダネ狙いでなく、ことの真相を明らかにすべく、調査報道に注力することになったところまで読んでほっとした。ただし、その後、この調査報道はさほど重要視されなくなったと書かれていたのは残念である。調査報道は、いわゆる週刊誌の「文春砲」が最近はダントツであるようだ。そこでは、どのようなトップの判断のもとに、どのような体制をとっているのか知りたいものだ。


全国をカバーする質の高い新聞が高い部数を保っていることは、日本が世界に誇れるものの1つである。各章の終わりに、各新聞社の発行部数が載ってある。それを次のようにまとめてみた。単位:1万部 (昨年度からの増減)

 

 

 

最近の部数の減少が気になる。その原因は、読者層の高齢化とインターネット記事の発展であろう。彼は社内でネット配信体制作りを進めてそれなりに成果を上げていた。それでも、最後には会社を辞める判断に至ったようである。

新聞社といえども、営利企業であるから財務状況が悪くなれば、倒産する可能性がある。昭和の戦争において、最初は戦争開始に懐疑的であった新聞も、軍部の新聞紙供給停止の脅しや、販売部数を上げるための読者の獲得の必要性から、雪崩を打って戦争賛美に走ってしまった苦い経験がある。新聞社の財務状況の維持も大事なことである。


著者は1人で会社を立ち上げて、ネット配信を主にした Samejima Timesを立ち上げている。寄付を募っていたので、わずかであるが、昨日、振り込んだ。ネット配信に特化すれば、発行費用を低く抑えられる可能性がある。ぜひ、一定の成功を収めてほしい。

 

言論の自由は民主主義を支える。ただし、ネットは言論の発表が極めて容易なので、悪用される機会が多い。わざと偽情報を流して大衆を悪い方向に、あるいは、利益集団のために誘導することができる。偽情報を防ぐのがジャーナリズムの使命の一つであろう。この点で、Twitter を買収した、イーロンマスクの現在の動きは気になるところである。これらも含めて、いわゆる民主主義を高めるために、報道におけるデジタル化を進め実践することを、著者の今後の活動として期待したい。

コメント

  1. どこも同じような記事では新聞離れは当然。記者クラブ制度をやめることが先では?

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