C&Cとデジタル

 

今ではあまり聞かれないC&Cは、NECの経営標語であった(ある?)。当時の小林宏治社長が、計算機と通信機が融合して、これまでにないシステム、サービスを実現させると、ある国際会議でぶち上げたものだ。その中核がデジタル技術である。計算機のデジタル化が先行しており、通信のデジタル化も始まっていた。デジタル化を物理的に実現する手段は、デジタル大規模半導体回路 (LSI)である。NECはこれらのすべての技術分野を擁しているので、未来があるとの主張であろう。


 NEC
のその次の社長には、中央研究所出身の関本忠雄氏がついた。彼は、元通信研究部の部長だったので、社長就任祝いの会が開かれた。若手2人がお祝いの挨拶をすることになり、私もなぜかその1人に指名された。私は言った。「あなたはNECの経営方針であるC&Cについて、これは優れて経営問題であると言っている。私もそうだと思う。計算機と通信機が主導権争をするだろうから、経営者としてその舵取りが難しいと思う。そのためには、社長として孤独な決断をしなければならない。あなたはその役を受けることになった。我々は社員の1人として支えていきたい」。彼は返事の挨拶で、「社長は孤独だと、いろんな人に言われる。しかし俺は皆とワイワイやるのが好きなので、そんなに心配はしていない」と答えた。


現在、C&Cの事業としての成功は、提唱したNECではなく、競争相手だった富士通のほうに分がある。株価を見てもそれはわかる。なぜこのような結果になったのかを考えてみよう。富士通は事業として、計算機の方が通信機よりもはるかに大きかった。そのために、計算機主導の経営が進んだものと思う。それはビジネスの理にかなっている。デジタル通信情報サービスからしたら、計算機 (情報)の方が最終顧客に近い。通信は裏方になるので顧客からは見えにくい。それで、計算機が事業の表に出る方が自然である。またデジタル化によって通信ネットワークの装置コストが大きく下がったことも一因かもしれない。計算機も同様ではあるが、情報処理サービスは通信サービスよりも市場規模が大きいのだろう。


自動車電話の登場した初期の頃には通話が主なので、通信端末が顧客とつながる接点であった。しかし、デジタル化が進み、無線ネットワークが整備され、端末がスマホになってからは、顧客は端末のアプリ操作のみに関心があり、通信を意識する事はほとんどなくなっている。そして、残念なことに、NECも富士通もC&Cと言うべきスマホ事業においては、世界から取り残されている。その理由は何であろうか。

 

デジタル化により、技術の陳腐化が促進され、事業としての新規参入障壁が下がったからである。ケータイ時代には、米国のモトローラ、日本のNEC、松下通信工業、富士通などが主導権を握っていた。その技術の中核は、無線通信のための信号処理技術であった。各社は自社でその中核LSIを開発生産していた。ところがデジタルLSI技術を用いた汎用チップセットが登場した。これを購入してケータイ機器を作れるようになった。日本ではシャープなどがカメラを搭載するなどして参入してきた。海外では、ノキアや、韓国のサムソンがのし上がってきた。現在は中国がトップを伺うまでになっている。

 

スマホを使っているユーザからすれば、その裏で高速で複雑な通信が行われている事は知らない。これらの無線ネットワークインフラ技術 (革新的な光ファイバー有線通信技術も含めて) は、少し前までは日欧の有力メーカーが主導権を握っていた 。不思議なことにモトローラなどの米国の会社は早くから脱落した。ATTの分割で研究開発力が落ちたことも一因だろう。最新の第5世代システムでは、マスコミ報道で知られるように、中国のファーウェイが覇権を握ろうとしている。

このような目まぐるしい変化を起こした本質は、ディジタル技術にある。ディジタルはアナログと違って、10をもとにして、計算あるいは通信を行う。このデジタル技術はLSIとの相性も抜群に優れている。LSI技術の進歩として、30年間で集積度は10-6、価格も10-6消費電力は10-4となるほど凄まじいものであった。我々が手にしてるスマホの中では、一昔前の大型計算機よりも優れた計算、通信能力が組み込まれている。

 

ついでに付け加えておこう。LSIビジネスは、米国に興り、ついで日本がトップになり、その後は、韓国、台湾に覇権が移った。日本が負けたのは、会社経営におけるトップの力量がなかったからだろう。日本の会社トップは、管理をしているのみで、長期的、世界的な状況変化の観点から戦略を立てる経営をしていないと揶揄されることが多い。これは、政治指導者層も含めた、多くの日本人の弱点かもしれない。

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