アブッテカモとクサブ

 

アブッテカモを知っている人は少ないだろう。博多では知られている。本称はスズメダイである。餌取りの名人で、特に磯や堤防でフカセ釣りをする人に嫌われている。見た目が黒く、変に長い背びれを持っていて、姿かたちもやや異様である。口が小さいので、針にかかることが少ない。かかっても、釣り人は持ち帰る事はあまりない。ところが、博多の人々は、好んで食べていると聞く。炙って焼いて食うそうだ。クサブは私の田舎での呼称であり、ベラのことである。赤や青の原色が特徴で、いかにも暖かい海にいる特徴を有する。歯はかなり鋭く、サンゴ礁や砂場の虫などを食べているのだと思う。関東では、釣っても捨てているようだ。福岡では魚屋に並んでいることもある。白身で淡白な味がする。私が育った五島 (列島)ではカサゴ (五島ではアラカブ)と並んで、特に産後の人に喜ばれていた。後で知ったことには、沖縄ではクサブベラと呼んでいる。本土ではクサブとベラに分かれて呼ばれているのだ。


私は、子供の頃1人で伝馬船を漕ぎ出して、湾の沖合の砂浜と岩礁帯のきわ (駆け上がり)に錨を落として、このベラとアラカブを釣りによく行った。アラカブを天草地方ではガラカブと言うようだ。GARAKABUと書いてみよう。日本語では母音の前の子音を省略することが多い。例えばOOKITA>OOITASAKITAMA>SAITAMAなど。それでガラカブがもともとの呼び方だったのだろう。

 

何年か前に、中学校の同級生会が島であった折、私が退職後に実家に釣り船を買ったことを知っている、同級生5人ぐらいが前にやってきて、私の船で釣りに出た。大物を釣らせたかったので、当時流行っていたタイラバ仕掛けで、クエ (ハタ、アラ)を狙わせた。この時は喰いが悪く、1人が赤ハタを1匹釣ったのみだった。女性が1人おり、彼女は島原に嫁いでいて、そこで知人の船でよく釣りに出ているそうだ。彼女がしびれを切らして、もう少し釣れるところへ

移動しようと言い出した。私はこの事態を予想していたので、早速、ベラ・アラカブ釣りに変えて、船を磯近くに動かした。案の定、入れ食い状態だった。湾の外の沖合であったので、ベラもカサゴもかなり大きなものばかりだった。みんな喜んで釣りまくった。ちなみに、彼女の腕前はピカイチだった。家に帰ると、もう1人の女の同級生が見に来て、彼女ら2人は、早速、土産に持ち帰るために大量の魚を唐揚げにし始めた。そのため、われわれは、クラス会の食事の準備に遅れて、幹事から悪い視線を浴びた。


昨年12月の初旬、釣りボートを持っている知人から毎度の誘いがかかった。2日後の土曜日に出港すると言う。畑の仕事があったけど、私は二つ返事で受けた。私は農業よりも漁師が向いている。農業は、こつこつとした仕事が多く、漁に比べると一発勝負と言うものがない。さらには、「でかいのがかかったけれども、逃げられた」と言うこともできない。逃げた魚はみんなでかいことになっている。いつものタイラバ仕掛けと、前に実績があった、電動リールでの餌釣り仕掛け(胴付きと吹流しの兼用)を持っていった。福岡県の津屋崎港から出て玄界灘で水中アンカーを入れた流しで釣る。そもそも、私の感覚からすると、砂場の真ん中で釣っているようで、これまで、タイ、アジ、サバ、コチ、ブリなどが釣れたのが不思議な位だ。五島では、いわゆる瀬(海中で盛り上がっている山の塊)で釣るのでわかりやすい。ここは、多分、ゴロタ石があるのだろう。船主はこれまで釣れたポイントを、GPS魚群探知機に記憶させていた。ところが、彼の甥っ子が1人で出た折に、帰りの漁港の中で運悪く船をひっくり返してしまった。船は買い変えたものの、魚群探知機のデータを移行できなかったそうだ。私の経験からしても、12月の沖釣りはあまり成果が出た覚えは無い。

船主は場所を変えると言い出した。1ヵ月前ぐらいに、孫を連れて行き実績があったと言う、相島の港の入り口近くの岩礁地帯に行った。しかし、ここでもさっぱりである。おまけに、港内護岸工事をしていて、この安全を確保するための監視船が雇われており、職務に必要以上に熱心で、工事に全く影響しないと思われる場所でも、追い出しにかかる。そこで、また場所を移した。島の反対側に回り、岸近くの岩場で流しながら釣ることにした。ここは前に、梅雨クロを浮き流しで、たくさん作ったところだ。五島でのアラカブ/クサブの場所と同じ状況である。

 

私は天秤に2本針仕掛けにして、エビをつけて落とした。すぐにあたりがある。覚えのあるあたり、そうベラの当たりである。まあまあのサイズが入れ食いだった。船主は餌を持っていなかったので、やろうとしたが要らないという。彼はメバル用のサビキ仕掛けでやる。これで、スズメダイを1度に数匹ずつ釣っている。サビキではベラは食わない事は知っていた。しかし、私の仕掛けには、スズメダイはかからない。船主は、私がベラ釣りに夢中になっているのを不思議に思っただろう。私は彼の気持ちの想像がついた。スズメダイやベラ等の、いわば、外道そんなに釣ってもしょうがないと思っただろう。私は、孫に持っていってやると言い訳して、餌がほとんどなくなるまで粘った。40匹以上釣った。まあまあの形のアラカブも1匹いた。アブッテカモは2匹のみ。


帰るときに、彼が釣ったアブッテカモを20匹ぐらい私にくれた。私は、お返しに、断る彼に無理に6匹位のベラをやった。アブッテカモがなぜそんなに釣れたのかは、彼の仕掛けにあった。メバル用のサビキであるが、仕掛けの糸が恐ろしく細い。四国の業者のみが作っているとの事だった。メバルは、目が大きくてよく見えるようなので、このようにしないと喰いが悪いのだろう。アブッテカモも丸い目が大きいので、餌だけ突っついて針にはかかりにくいのであろう。


帰ってから小さな魚をたくさんさばくのは、手間がかかる。これは私の仕事である。ベラは3匹をセゴシ (頭と内臓、ヒレを除いて丸のまま骨ごと出刃包丁で薄く切る。ポン酢あるいは酢味噌で食べる)10匹を煮付け、残りを唐揚げ(そして甘酢での南蛮漬け)にした。3匹は一夜干しにした。アブッテカモの唐揚げと南蛮漬けも含めて旨かった。雑魚は鮮度と旬と料理法が揃えば高級魚に負けない。後で、船主と電話で話した折、彼も同様に料理をして、うまかったと言っていた。彼の場合、もともと、期待していなかったのだから余計そう感じただろう。


ただし、アブッテカモの焼いたものは、もう一つと言う感じだった。塩を振って鱗ごと焼くとは聞いていた。後で、テニスの仲間で、釣りをやる男の1人に話してみたら、塩を強く振って丸1日長寝かせるそうだ。彼は博多の料亭で、アブッテカモを3匹で700円位で食ってうまかったと話していた。良いことを聞いた。次が楽しみである。

 

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