つい先日のことである。買い物帰りの車で、跨線橋の上で渋滞のため信号待ちしていた時に、不思議な動きをするものを見つけた。田んぼの上で鳥が飛んでいるように見えた。よく見ると、どうやら鳥の鷹を模したビニール製の凧(タコ)である。どこかにくくられているようだ。糸の長さは10メートルもないくらい。これが実に不思議な動きをする。飛び上がると少しの間は、安定した飛行をするものの、急に落下する。獲物を捕まえるときの動作に似ている。田んぼに落ちたので、そのままと思いきや、突然、舞い上がる。これを不規則に繰り返す。これだと、スズメなどの害鳥は、怖がって近寄らないだろう。このときは、風の吹き方が具合が良かったので、特に効果的な動きをしたのだろう。 それにしても、なぜこのような動きをするのであろうか。安定して風に乗っていたのに、急に落下する物理的な仕組みがどうなっているのだろうか。また田んぼに落ちてから、再び舞い上がるのはどうしてだろうか。凧揚げをした人は知っているように、いちど地べたに落ちた凧が1人でに上がる事は極めて稀だ。よく上がるので有名なビニール製の三角凧 (米国の航空宇宙局NASAが形状を開発したと聞いている) なら、その可能性は考えられなくもない。特に稲と水面の間に風が通る空間があるので、その可能性は高い。しかし、そうすると、飛行が安定しているのに。急に落下する動作が理解しづらい。おそらくは、形状に工夫があるのだろう。長くは見ておられなかったので、形状は定かでないが、少なくとも三角凧とは違い、本物の鷹か鳶に近い形をしていた。これに秘密があるかもしれない。この凧はホームセンターの農具売り場にあると思う。そのうち、買ってみて試してみるつもりだ。

 私は小学生の頃から凧揚げが好きで、自分で作って遊んだ。奴凧はよく上がるけれど、動きが単調で面白くなかった。最近の三角ビニール凧などあげようとは思わない。凧揚げは長崎が有名である。長崎ではハタと呼ぶ。竹ひごを十字に組んで結び、周りに糸を張り、紙を貼る。あげる人の糸の操作によって左右上下に自在に動かせるところに特徴がある。糸を引くと、凧の先端が向いた方向に動く。したがって、最初に挙げるときは真上にして素早く糸を引くのがコツである。長崎では春先に凧揚げをして遊ぶ習慣がある。昔は、庶民( ある程度の富裕層かも)がピクニック気分で弁当を持って家族で出かけ、使用人に凧をあげさせていたと聞いたことがある。他人の凧の糸を空中でわざと切って落とす遊びを行ったようだ。凧の付け根付近の糸に、糊でガラス粉を練りこんで、他の凧の糸を切りやすくしている。斬られたタコは持ち主の権利が失われ、落ちてきたら誰が拾っても良い決まりだ。この凧の形状は十字型に竹を組む際に、上下の距離を、確か1対5としている。糸は十字型の部分と最下端に2本取り付け、一箇所で結んで道糸につける。この上下の糸の長さが重要である。下部の面積が広いので、ここに風を受けて膨らむことが凧を上にあげる秘密があるように思える。 長崎ではオランダハタと呼んでいたようであるから、江戸時代に外国から入ってきたものだろう。東南アジアでも (中国も) このような凧が上げられているようなので、発祥がどこであるかは、私にはわからない。フランクリンの雷の正体解明の実験で使われた凧の形状もこれに似ているようなので、西洋が発端である可能性もある。 誰か調べてわかったら教えてください。

 私が田舎(五島)で小学生のときに作ったのも、この長崎の凧であった(昔の実家の天井に、バラモン凧と呼ばれるのが置いてあったのも憶えている)。東京で結婚して住んでいた頃、義理の父が立派な長崎ハタを1枚持ち帰ってきたので私が譲り受けた。彼は、長崎県の東京宿泊所の寮長をしていたので、東京の玉川ベリで行われた、県人会のハタ上げ大会の際に、もらったようだ。義父はとっくに亡くなったけれども、その凧の骨組みは、今でも健在である。糸を何度か張り直し、紙も貼りなおした。 何年か前の冬に、息子夫婦と2人の孫と一緒に、近くの公園にこのタコをあげに行ったことがある。孫に持たせておいて、合図で手を離すと同時に糸を引いて上げる。あいにく、風があまりなかったので、糸の結び具合等を調整して何度も試したけれど、高く上げることができなかった。このような状況では、よっぽど慣れた人でも、上げることができない。1度高く上げれば、上空はそこそこの風があるので、なんとかなる。うまくいかないので、孫たちは飽いてしまい、公園の遊具で遊び始めてしまった。何度も地面に墜落したので、紙が少し破れてきた。私は意地で続けた。そのうち、風が少し出て、十分に高く上がってくれた。孫たちも喜んで駆けつけてきたので、糸を持たせてやった。ただし、操作が慣れていないので、すぐに落ちてくる。慌てて私が代わって操作した。 その後、紙を貼り直して孫たちが色付けをしてくれた。赤、白、青のオランダ国旗の配色である。これはまだあげる機会がない。来年の正月にでもあげたい。 

ここまで書いてみて、冒頭で紹介した凧の動作原理は、それほど込み入ったものでは無いのではないかと思ってきた。長崎の凧の例で分かるように、そのタコは頭が向いている方向に動くだけの事かもしれない。風が吹き始めて、凧の頭が運良く空の方向へ向いていると自動的に上がるだろう。しかし風の速さとか向きが少しでも変わると凧はその頭の方向を変え、その方向へ動く。したがって、いったん下を向くとそのまま落下する可能性が高い。このように、風の状況が変わると、それに応じて自動的に動くだけの仕組みかもしれない。その際、糸の長さが短いことも要因の一つだろう。人間が糸を操作すれば、長崎凧のように安定して上げることができるのだろう。いずれにせよ買ってきて確かめてみたい。

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