音響 ‐ 聞こえない音が大事 -

人間の耳には高い周波数の音は聞こえない。ある会社で10キロヘルツ (kHz) のトーン (正弦波) 信号を作成して聞いていたところ、社長と私には聞こえなかった。そばにいた社長の奥さんには聞こえた。彼女は60歳代、我々2人は70歳代である。昔の時代劇小説家で、五味康介と言う人がいた。彼は音響 (オーディオ) マニアとしても知られていた。高齢になっても、タンノイ社の馬鹿でかい最高峰スピーカー、オートグラフをラックス社の真空管アンプで鳴らしていた。意地の悪い評論家は、高齢の彼の耳が高い周波数の音を聞けるはずがないとして、その高価な音響装置が無駄と言っていた。実は、私もオーディオマニアの端くれである。タンノイのスピーカーDC386 (直径38cm ウーファー + 同軸ツイータ) をラックスの純A級アンプL-560で鳴らしている。スピーカーの箱はユートピア社のもので、高さ100cm、幅60 cmのW型開放構造である。何年か前に、タンノイが新しく出した、外付けスーパーツイーターを買った。これは14 kHz以上の音を再生でき、調整用ネットワークが付いている。娘が私を馬鹿にして、耳に聞こえない音を出すスピーカーを、騙されて高い金を払って買ったと言っていた。このような指摘に対して、私は今まで反論を重ねてきた。LP時代の録音においても、高い周波数成分が音質に重要である事は、専門家には経験的に知られていた。

 CDが出たときの音を聞いて、ずいぶんと違和感を感じたものだ。その標本化周波数が44.1 kHzであるので、音楽信号の20 kHz以上の周波数成分を除去しているのも、1つの原因である。これらの詳細については、私が書いた教科書「信号処理の基礎」で「標本化定理余話」として書いてある。興味がある方はクリックしてみてください。その中で言及している、音の聞こえ方の実験を皆様に試みてもらうため音源を作成した。聴いてみてください。音質を重視するためWAVファイル形式です。聴けない人はをWAV をMP3に変換してくれるサイトに当たってみてください。 

最初は1 kHzのトーン信号です。機器が正常に動作していて、これが聞こえなかったら耳鼻科で耳の検査をしてもらうべきです。

 次は18 kHz信号です。聞こえた人があればお知らせください。

 最後は18 kHzと19 kHz信号を足し算した音です。1 kHzの音が (歪んではいる) が聞こえるはずです。 これによって、別々に聞くと全く聞こえないのに、足し算すると差の周波数 (上では1 kHz) が聞こえてくるのを実感できたはずです。 楽器の音では、弦のこすり音や、打楽器などの出だし音、声学では子音発生時などの摩擦音が、高い周波数成分を含んでいます。海岸の波の音などもそうです。これらは雑音と言うべきものです。これらの成分を消してしまうと、人間の耳(あるいは脳)の中で生じる、差の周波数成分が抑えられるので、現実の音を聞いた時との差が、違和感になっていると思う。差の周波数成分は、人間に心地よい感じがするα波 (人間の耳では聞こえない低い周波数)、を脳の中で出しているのでしょう。我々は母親の胎内の羊水の中に浮かんでいるとき、この波の音をずっと聴いて育ったと考えられます。だから波の音を聞いて心が休まるのだと思う。

 差の周波数が発生する原因は、人間の耳を入力と出力を備えた機能体として捉えたとき、非線形特性を示すことを表す。入力 x、出力yの関係を、級数で表すとすれば、偶数次歪みを示している。例として、2つの正弦波信号に対する2次歪みを考えると次のようになる。

    y=(x1+ x2)^2=(cosω1t+ cosω2t)^2   

     = cos(ω1- ω2) t + cos(ω1+ω2) t +(cosω1t)^2+( cosω2t)^2 

 差の周波数 ω1- ω2が生じていることがわかる。3次などの奇数次の歪みでは差周波数成分は発生しない。 最近はデジタル信号処理技術の進歩により、高品質の音源 (ハイレゾ: High Resolution) が簡単に利用できる。私はe-onkyoから買っている。USBメモリに入れて、マランツのネットワークプレーヤーNA8005で再生している。そのため、マランツのSA CDプレーヤー (SA 11S1, 30万円) の出番が減っている。私が気にいっており、お勧めしたいのは、テオドール・クルレンティスが、ムジカエテルナを指揮しているもの、特に、チャイコフスキーの交響曲「悲愴」です。演奏者のほとんどが、独奏者のように立って演奏するそうです。クラシック音楽がこんなに楽しめる事は驚きです。

 最後に、今回の音源作成に指導協力していただいた、(株)マイクロラボの時藤さんと吉武さんにお礼を申し上げます。また、無料で使える音源作成編集ソフト、Audacity を使わせていただいたのを感謝したい。

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