ふくれ餅


故郷の五島(奈留島)では、お盆や祝い事のとき、ふくれ餅を作る。小麦粉を練ってイースト菌で膨らませ、中にアンコを入れて、カンナの葉などを敷いて、蒸して作る。蒸し器の中でふくれて、お互い押し合いするので、面白い形になる。ふくれ餅の型枠があると思い、どこに売っているかと聞いた男がいたとの笑い話がある。私の母親の作るふくれ餅は評判が良く、大きなざるに盛られたのを、お盆に集まってくる大勢のいとこたちと、皆、思い思いにとって食べたことが懐かしい。

私が生まれたのは、昭和2099日(旧暦)である。この日は、奈留神社のお祭りの日である。朝から、母親が産気付いたので、父の妹が代わりにふくれ餅を作ったそうだ。それが失敗作で、ふくれずに固い団子状であったと、今でも姉たちの語りぐさになっている。ふくれ餅を作るには、そこそこのコツがあるみたいで、いつも、うまくいくとは、限らない。島の中学の同級生の女たちに聞いても、自分で作れるものは少ないようだ。父と母が相次いで亡くなってから、14年になろうとしている。私の妻が、ふくれ餅の作り方を伝授してもらっており、今まで、そこそこのできぶりである。島に残っている、いとこの一人で、この餅作りの名人と我々が認める女性に数年前に教わってから、母親のものとは少し変わって、粘り気がちょうど良いのを、昨年のお盆に作ってくれた。

ところが、今年のお盆に作ったのは、失敗作だった。先に書いた叔母の作ったのはこれかというものだった。家内も途中でおかしいと気がついたものの、どうすることもできなかったようだ。私は、問題が起こると、その原因を突き止めるのが大好きである。落ち込んでいる家内に、いろいろ理由をを尋ねると、機嫌が悪くなる。「俺はお前を責めてはいない、来年に向けて原因を究明したいだけだ」と言うも、話に乗ってこない。「俺の母親は、なぜ失敗したかをいつもしっかり考えていた」と言ったのが悪かった。「来年からは作らない」言い出してしまった。失敗作で、固いけど、団子と思えば食えなくもなかったので、そのむね言ったものの機嫌は直らない。私はさらにひどいことを、娘への電話の中で喋ってしまった。「今年のふくれ餅はふくれず、母さんの顔がふくれている」。

夫婦喧嘩をしながらも、失敗の原因は、イースト菌が悪くなっていたのだろうと結論付けた。このイースト菌は、3年前に奈留島に帰ったおり、妻に言われて私が買って持ち帰ったものだ。イースト菌は乾燥したものより、生の方が出来が良くなるそうだ。ただし、宗像の自宅付近には、生イースト菌を売っているところを知らない。冷凍しておけば長く持つとのことで、保存していたものの、今年は3年目であった。昨年の出来は、もちもち感が名人のいとこのものと同じようだったので、昨年は、イースト菌がちょうど良い活動状態であったのかもしれない。

さて、来年のふくれ餅はどうなるか。

コメント

  1. 私は成人してから家でパン作りに夢中になった時期があります。ところが一度、失敗しました。イースト菌[酵母菌]❓にヌル湯をかけるところを熱湯をかけて菌が全滅してパンが中東のナンになってしまいました。ともかく、先生の夫婦喧嘩は聞いていて苦笑してしまいました。学者のとんちが効いている気がします。故郷の話をありがとうございます

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