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電磁波の伝搬とマイクロ波伝送回路

  社員研修用の資料 を作成した。ここでは、前書きと後書きを抜粋する。興味のある人は、全体を読んでください。 1.  まえがき  ある会社の技術顧問として、複素数、デルタ関数、フーリエ変換、線形システム理論、電気回路の交流理論、および、マイクロ波の基礎を講義することになった。私の書いた教科書、「信号処理の基礎」(昭晃堂)を用いることにしている。しかし、この本の内容は、マイクロ波を含んでいない。これに対して、手元に適当な教科書が見当たらなかったので、ここに、新しく書いてみることにした。  まず、 Maxwell の方程式の紹介から始める。ここでは、この偏微分方程式が物理的に意味することを説明する。次に、自由空間での平面波としての電磁波を、 Maxwell の方程式から出発して記述する。ここでは、進行波の性質を、伝搬定数、伝搬速度、波長、直線偏波、円偏波などの概念を用いて説明する。     Maxwell 方程式を用いて高周波回路の解析を行うためには、その回路によって与えられる境界条件を必要とする。それで、異なる媒質が接する面上における電磁界に課せられる条件を示す。完全導体の表面はその特別な場合である。    次に、高周波回路の代表の一つである同軸伝送路を取り上げ、その基本モードである横波( TEM: Transversal Electric and Magnetic field )を仮定して、その電磁界の伝搬を説明する。同軸伝送路については、分布定数 ( インダクタンス L , キャパシタンス C ) 線路として、電圧 ( V ) と電流 ( I ) を用いる従来の交流理論の範囲内で議論する方法がある。しかし、この方法は、 L, C がなぜこのように分布するかは、直ちには理解しにくい。ここでは、円筒座標表示を用いて、 Maxwell 方程式の境界値問題を、 TEM 波を仮定して解く。ここで、天下りの記述はできるだけ避けている。これにより、進行波と反射波、特性インピーダンス、並びに反射係数を定義した。また、整合負荷および電圧定在波比 ( vswr: voltage standing wave ratio) の概念を紹...

ジョン・ダワー「敗北を抱きしめて」

  ジョン・ダワー「敗北を抱きしめて」 ( 岩波書店 ) コロナに罹って、布団の中で 10 日間過ごした。前から出ていたアレルギー性鼻炎の症状が少し強くなった位で、熱は平熱のままであった。 2 階の 1 室に隔離され、 3 度の食事は、廊下での受け渡しとなった。気持ちの持ちようなのか、あるいは、体を動かさないせいなのか、酒がなくとも平気であった。また、退屈もしなかった。読書を心おきなくできたからだ。娘とその婿から 3 冊の本の差し入れがあったのに加えて、自分の本棚を見渡して、 R. ドーキンス「祖先の物語」 ( 小学館 ) と表題の本を選んだ。また、小出昭一郎、「物理現象のフーリエ解析」を読んで、私の数学論文の式変形が不十分なところに偶然気がついたのは、怪我の巧妙である。   この本は、上下巻合わせて 834 ページの大作である。 2010 年、第 7 刷とあるから、これ以降に買ったはずだ。途中まで読んで、私はほとんど読んでないことを知った。識者が推薦する本の上位にあったので買ったものの、そのままになっていたのであろう。途中まで読んで、読み終わるのが惜しくなる感情を久しぶりに味わった。増補版とあり、日本語訳に際して写真と図表が大幅に追加されている。写真は、文章以上に雄弁である。読み終えたのは、療養期間が明けて 10 日間位あとである。例によって読書感想文を書こうと思ったものの、なかなか構想が固まらない。それで、思いつくまま書くことにする。 戦後史については、保阪正康、半藤一利、加藤典洋などが、また戦後の思想については、丸山眞男、吉本隆明、岸田秀、白井聡、などが書いたものを思い出す。これらに比べると、本書の出来栄えは圧倒的である。ただし、戦後の重要な出来事が新しく発掘されていると言うわけではない。ポツダム宣言、天皇の取った行動、 GHQ とマッカーサー、新憲法制定、非軍事化と民主化の推進、財閥解体、農地解放、公職追放、レッドパージ、朝鮮戦争勃発、再軍備、独立後も続く対米依存などの主要の話題は、これまで、著作本、新聞雑誌の記事としてすでに書かれ、議論されている。   この本の特徴は、議論の仕方が学問的であることだ。すなわち、研究の成果を書...